Aoba Gut Guitar made by Rokumei Kano in 1955
戻る千葉県にお住まいのO.S.さんからガットギターのリペアご依頼をいただきました。1955年に加納木鳴によって製作されたものです リペア後のギターを受け取られてO.S.さんからとても暖かいメッセージが届きました。
ギター工房オデッセイ 樋口英之さま
前略
さきほど、ギターを受け取りました。さっそくのご発送ありがとうございます
相当に大変なリペアであったとお察しします
父(77歳)が50年前に購入、30年余り前に壊れて、そのままになっていたもので、父もたいへん喜んでおります
もっと喜んでいるのはギター自身でしょう
さっそくチューニングをとり、Cを押さえて、ジャラーンと弾いてみました・・・・今まで聴いたことのない、すばらしい音です。いや、音ではなく、30年ぶりに生まれ変わったギターの喜びの声に聞こえました。涙が出ました。感動です
父も、またギターを始めたいと申しております
このたびは、大変なリペアをしてくださり、本当にありがとうございました
我が家には、ほかにも何本かギターがあります。リペア時期がきたら、ぜひとも樋口様にお願いしたいと思います。そのときはまたお世話になります
樋口様は演奏活動もされているとのこと、私も関西方面には時々参りますので、機会がございましたら演奏をお聴きしたいです
時節柄、くれぐれもご健康にご留意され、一層のご活躍をされますように
草々不一
O.S.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、ありがとうございました
O.S.さんのご家族皆様にお喜びいただけて、私も本当にホッとしていると同時に、嬉しい気持ちで一杯です
おっしゃるとおり、ギターが一番喜んでいることと思います
文面を読ませていただくうち、熱いものがこみ上げてきました。ギターは人生の伴侶なんだ、ということと、世代に渡って愛されていくものなんだ、ということを再認識した次第です
リペア前のギターを受け取った時、正直ショックでした。そしてリペアをしている間、その状況が当初の想像を遙かに超えていたこと、さらにリペアを進めていくうちに、徐々にギターらしくなってくることへの期待と不安
リペア後、弦を張り、試奏した時のギター全体から流れ出てくる音色は、言葉にすることができないくらい素晴らしいものでした
そしてO.S.さんからの心暖まるメッセージは自己満足ではない大きな充実感を運んでくれました。最も大切なギターの音色に対する評価を頂いた今は、安心と喜びが交錯している状況です
こちらこそ素晴らしいギターリペアの機会と経験、そして勇気と自信を与えてくださったO.S.さんに深く感謝致します。本当にありがとうございました
この度は弊工房にギターリペアのご依頼をいただき、誠にありがとうございました
今後とも何卒よろしくお願い致します。
リペア前の状況確認
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- 1.ネックからサイド板に渡って割れています。
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- 2.ネック・ヒール部の両側に渡って大きく割れています。
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- 3.バックボードも浮いています。
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- 4.ブリッジにも剥がれが見られます。
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- 5.バックボードを持ち上げると・・・
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- 6.外れてしまいました。
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- 7.銘板には昭和三十年ノ作と書かれています。(私の生まれる1年前に製作されたギターです!)
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- 8.トップ板のブレイシングにも浮きが見られます。
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- 9.ブレイシングの浮きは全体に広がっています。
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- 10.ボディ内側からサイドの割れを見た様子です。
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- 11.反対側のサイド部です。接着剤での補修はかなり強固なので、割れを切り離さずに割れ補修を行うことにしました。
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- 12.それではリペアを始めましょう(笑)。
バックボード・ブレイシング再接着
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- 1.バックボードのブレイシングを全て外し、再接着しました。
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- 2.ここで使用しているジグはギター製作用のGoBarクランプです。
ネック接合部再接着
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- 1.ボディ内部のネック接合部がトップ板から剥がれていますので、古い接着剤の跡をサンドペーパーで削り取っています。
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- 2.マスキングテープで周囲を保護し、接合部分に接着剤(ニカワ)を流し込んでいきます。
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- 3.クランプで固定し、あふれた接着剤をふき取っていきます。
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- 4.このまま固着を待ちましょう。
トップ板ブレイシング再接着
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- 1.トップ板下側のブレイシングを全て取り外しました。
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- 2.上側のブレイシングも外れました。
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- 3.クランプと当て木でブレイシング材を固定し再接着します。
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- 4.中央のブレイシング材も同じように再接着します。
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- 5.ブレイシング材に接着剤を塗り、そっと乗せます。
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- 6.この部分はマグネットクランプを使いました。中央のマグネットの左右にあるものはコルク材でマグネットがブレイシング材に均一に当たるように挟んでいます。
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- 7.トップ板の表側にもマグネットを当てます。
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- 8.トップ板とサイドの間にも隙間があります。これは後の工程で接着します。
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- 9.スプール・クランプでトップとサイドを仮固定しています。
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- 10.トップ板ブレイシングは中央から一本ずつ再接着していきます。
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- 11.トップ板の強度が徐々に大きくなってきました。
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- 12.トップとサイドも固着してきました。
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- 13.端のブレイシングを接着しています。
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- 14.トップ板のブレイシング再接着が完了しました。
トップ・サイド再接着
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- 1.トップ板とサイドも剥がれています。
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- 2.剥がれはネック部分を除いて全体に広がっています。
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- 3.隙間が残らないように接着します。
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- 4.トップ・サイドの接合が均一になるようにクランプします。
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- 5.裏側からも隙間がないことを確認します。
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- 6.サウンドホール部分は横向きにクランプしています。このまま固着を待ちましょう。
トップ板割れリペア
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- 1.トップ板中央下部に割れがあります。
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- 2.スプルース材を切り出しました。このとき、木目に注意します(トップ板と垂直になるように切り出します)
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- 3.ダイヤモンド型に切り取り、傾斜を付けました。
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- 4.割れ部分に乗せてみてカバーできることを確認します。
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- 5.接着しています。ここでもマグネットクランプを使用します。
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- 6.トップ板割れリペアが終わりました。
サイド割れリペア
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- 1.サイド部リペア用にメイプル材を切り出しました。
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- 2.この補強材もサイド板の木目と垂直になるように切り出します。
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- 3.サイド部分のカーブに合わせてアイロンでベンディングします。
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- 4.ベンディング方向と木目方向が同じなので割れないように注意します。
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- 5.底面に湾曲のある補強材ができあがりました。
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- 6.サイドの割れをスプール・クランプで閉じるように固定しながら、ミニクランプで一つずつ接着していきます。
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- 7.補強材の接着完了です。
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- 8.割れの跡は残っていますが、隙間は無くなりました。
ネック折れ補強
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- 1.ネック折れはボルトで補強します。
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- 2.ネック割れ目方向にドリルで穴を空けます。
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- 3.さらにボルトをねじ込んでいきます。
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- 4.ネックのボルト補強完了です。
ブリッジ接着
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- 1.トップ板のブリッジ接着部分の周囲にマスキングテープを貼ります。
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- 2.ブリッジ底面もフラットファイルでクリーニングしました。
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- 3.接合面に接着剤を塗ってブリッジをそっと乗せます。
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- 4.クランプし、あふれた接着剤をふき取った後、マスキングテープを剥がします。
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- 5.このまま固着を待ちましょう。
バックボード接着
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- 1.バックボードを接着してスプール・クランプで固定します。
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- 2.ようやくギターの形に戻ってきました(笑)。
フレットすりあわせ
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- 1.マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
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- 2.ボディもアクリル板でカバーしました。
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- 3.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
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- 4.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。
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- 5.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
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- 6.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。
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- 7.さらに研磨タワシ(#600~#800)で研磨を進めます。
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- 8.最後はコンパウンドで磨き上げます。
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- 9.プロテクタ類を外しましょう。
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- 10.ピカピカのフレットになりました。
ナット交換
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- 1. 当て木を当てて、軽くコンとたたきます。
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- 2.ナットが取り外せました。
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- 3.ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が残っています。
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- 4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。
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- 5.クリーニング完了したナット溝です。
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- 6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。
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- 7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
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- 8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。
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- 9.1弦側からもナットの密着を確認します。
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- 10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。
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- 11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
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- 12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。
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- 13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
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- 14.ナット上部を切り取りました。
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- 15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
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- 16.ナットらしくなってきました。
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- 17.オリジナルナットを参考に弦溝位置を新しいナットに書き込みます。
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- 18.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
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- 19.弦高調整前のナットです。
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- 20.弦高調整後のナットです。
サドル作製
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- 1.弦高調整前のサドルです。
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- 2.弦を張り、サドル作製が完了しました。