Martin D-28
戻る山形県にお住まいのT.S.さんからMartin D-28のリペアご依頼をいただき、フレットすりあわせ、ブリッジプレート・リペアなどを含む弦周りのトータル・リペアを行いました リペア後のギターを受け取られて、T.S.さんから、とても温かいメッセージが届きました。
ギター工房オデッセイ
代表 樋口 様
先日、確かにリペア後のMartin-D28確かに届きました
多岐にわたり修繕を施していただきましてありがとうございました
サドルの余裕はまだ残っていますので、今後恐らく暫くはこのまま弾き続けられると思います
外観も1990年製にしては、程よくビンテージ観も漂ってきました
以前より、レスポンス面、音のクリア性、広がりなど良くなったように思います
高校時代(当時はギター愛好会に入会→後にギター部:現在廃部)には、友人とかぐや姫、アリス、風などコピーしながら演奏していました
当時は、モーリスのギターを使用していました。(このギターは大学時、親友が焦がしその代償として中古のYAMAHA L6が転がりこんできました)
毎日ドラム、エレキベース、エレキリード、アコースティック(私)と4名で楽しく騒いでいました
今でも、時折、姫風(こうせつ、正やん)やイルカ+正やんなどのコンサートには観に行ったりします。特に、正やんはあこがれの存在でしたので…
指の動きは、相当衰えましたが、もう一度ギターを片手に爪弾きたいと思いリペアのご依頼をお願いした次第です
少しづつ、馴らしながらギターのある生活を始めたいと思います
また、機会がありましたらよろしくお願い致します
ありがとうございました
全く実感が湧きませんが、来年4月には早や還暦を迎えます
いつまでも心は青春です…
山形 T.S.
T.S.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました
リペア後のギターにご満足いただけて、私もとても嬉しい気持ちでいっぱいです
私もリペア後のギターを試奏させていただきながら、自分の若き日のほろ苦い思い出に浸ったりしていました(笑)
T.S.さんの青春時代の想い出がたくさん詰まったギターをリペアさせていただいて、思い入れの大きさを知ることができ、本当に幸せなギターだなぁ、と思いました
どうぞこれからもD-28とともに青春時代を末永く楽しまれてください
この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。
フレットすりあわせ
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- 1.フレット山ラインに凹凸が見られますので(弦方向)フレットすりあわせを行います。まず、マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
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- 2.ボディもアクリル板でカバーしました。すりあわせを行うことにより、音詰まりやビビリの減少が期待できます。
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- 3.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
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- 4.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。
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- 5.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
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- 6.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。
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- 7.さらにスチールウールで研磨を進めます。
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- 8.最後はコンパウンドで磨き上げます。
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- 9.プロテクタ類を外しましょう。
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- 10.ピカピカのフレットになりました。
ブリッジプレート・リペア
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- 1.ボディ内部ブリッジの裏側に取り付けられているブリッジプレートです。弦のエンドポールが食い込んでしまう状態になっています。
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- 2.メイプル材からブリッジプレート・リペアのためのプラグを切り出します。
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- 埋木用プラグを切り出している様子です
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- 3.完全に切り離さず、ぎりぎりのところで固定させておきます。
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- 4.プラグの中央に小穴を開けます。位置決めのためにポンチで凹みを入れています。
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- 5.小穴があいたプラグです。まだ材に固定されています。
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- 6.切り出し終えたプラグたちです。
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- 7.プラグの裏側には木目がわかるように線を入れておきます。
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- 8.このカッタージグを使用して、ブリッジプレートの凹み加工を行います。
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- 9.ブリッジ表面のハンドルを回して、カッターを回転させ、ブリッジプレートの凹み加工を行います。
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- 10.ボディ内でカッターはこのようにブリッジプレートと接触しています。
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- 11.1弦の凹み加工を終えたブリッジプレートです。
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- 12.同様にして3,5弦の凹み加工も行いました。
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- 13.マスキングテープの粘着面を外側にしてプラグを半固定します。
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- 14.タイトボンドをプラグにつけて、小ネジを中央の穴にねじ込みます(この小ネジも半固定状態です)。
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- 15.半固定状態でプラグをそっとブリッジプレートの下に運んでいきます。
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- 16.1弦のプレート凹み部分にプラグを接着しました。小ネジは少し引き上げてプラグを固定した後、緩めとります。
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- 17.1,3,5弦のプラグ固定が終わりました。このとき木目方向を確認しておきます。
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- 18.アクリル板を挟んでマグネットクランプした後、固着を待ちます。
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- 19.1,3,5弦のプラグ固着後、同じように2,4,6弦のプラグ接着を行います。
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- 20.6弦すべてのプラグ接着を終えました。
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- 21.固着したプラグにブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。
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- 22.クランプを避けるように長いドリルビットを使用します。
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- ブリッジピン穴を空けている様子です
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- 23.プラグにブリッジピン穴を開けました。
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- 24.弦を張りました。エンドポールがプレートの上にしっかり固定されています。
ナット交換
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- 1. オリジナルナットです。
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- 2.当て木を当ててコンとたたいて外します。
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- ナット取り外しの様子です
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- 3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
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- 4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。
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- 5.クリーニング完了したナット溝です。
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- 6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。
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- 7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
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- 8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。
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- 9.1弦側からもナットの密着を確認します。
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- 10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。
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- 11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
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- 12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。
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- 13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
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- 14.ナット上部を切り取りました。
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- 15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
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- 16.ナットらしくなってきました。
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- 17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
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- 18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。
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- 19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
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- 20.弦高調整前のナットです。
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- 21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
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- 22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。
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- 23.ナット高調整前の弦溝です。
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- 24.弦高調整後のナット弦溝です。
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- 25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
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- 26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。
ピッチ調整~サドル作製
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- 1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
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- 2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。
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- 3.サドル山位置を書き写していきます。
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- 4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。
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- 5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
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- 6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。
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- 7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
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- 8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。
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- 9.サドル高の切り出しを終えました。
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- 10.サドル高を切り出したサドル上部にピーク位置を書き写します。
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- 11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
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- 12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。
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- 13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
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- 14.ブリッジピン穴加工を終えました。
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- 15.サドルを取り付けました。
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- 16.完成したブリッジとサドルです。
バインディング剥がれリペア
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- 1.ボディバインディングです。
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- 2.全体的に経年収縮が見られます。
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- 3.バインディング自体も分離している状態です。
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- 4.バインディング用接着剤で補修しました。
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- 5.収縮分によりボトム側にバインディング隙間ができました。
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- 6.バインディング材を隙間に埋めました。
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- 7.飛び出た部分をカットします。
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- 8.周囲とレベルを合わせました。
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- 9.補修後のバインディングです。
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- 10.今後数十年間はこのまま使用できます。
打痕跡塗装タッチアップ
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- 1.トップ打痕跡です。
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- 2.別の跡です。打痕が深く、さらに経年がたっているので中央部が黒く変色しています。
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- 3.中央部の黒ずみを削り取っていきます。
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- 4.ラッカーを打痕跡に流し込んでいきます。
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- 5.このままラッカー乾燥を待ちます。
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- 6.乾燥後のラッカーの盛り上がった部分をスクレイパーで削り取っていきます。
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- 7.周囲に影響を与えないように慎重に盛り上がった部分だけを削っていきます。
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- 8.サイド打痕跡も同様に処置していきます。
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- 9.スクレイピングしています。
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- 10.補修後の打痕跡です。
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- 11.こちらは別の補修跡です。
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- 12.サイド補修跡です。