ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Gibson J-45

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Gibson J-45
兵庫県にお住まいのM.N.さんからGibson J-45とAsturias D.Emblemのリペアご依頼をいただきました。Gibson J-45はネック元起き現象が見られたため、ネックリセットなどを含むトータル・リペアを行いました。M.N.さんからは以前にCat'sEye CE-800MGibson J-45のリペアご依頼をいただいており、今回で2回目のリペアとなります。M,N,さん、いつもありがとうございます。(今回のGibson J-45は前回の物と同じ個体であり、比較的短期間にネック元起き発生が確認されたため、ネックリセットを行わせていただきました)
リペア後のギターを受け取られて、M.N.さんからとても暖かいメッセージが届きました。

ギター工房オデッセイ
樋口 英之 様

この度も2本のリペア有り難うございました。

まずはJ-45ですが2度目のネックリセット(5年前に1度目)でした。
私の不注意で弦を緩めずに9ヶ月ほど放置していて、その間に元起きと順ぞりが再発していました。
弦高が12Fで6弦4mmほどでローコードが辛うじて弾ける状態になっていました。
届いたギターは、12Fで6弦2mm 〜1弦1.5mmの設定に。これで弾き難い訳がありません。
私のストロークではビビリはなくたいへん満足しています。
今後は、弾かない期間がある時は弦を緩めて大切に弾いて行こうと思います。

Asturiasは入手した時から弦高も低く上品な音で気に入っていましたが、届いたギターを弾いて最初は違和感がありました。
弦高はより低く設定(J-45と同じ)され、より弾き易くなっていました。
音が変わった様な気がします。言葉での表現が難しいんですが、音の芯が太くなった様な。派手な音は好みではありませんが、上品な音が熟成して優雅な音になった様な気がします。
このギターが潜在的に持っていた音なのかもしれません。サドルの低さに心配しましたが、TUSQ化が功を奏したのか私の耳では音圧が下がったとは感じません。
J-45と同様にビビリありません。こちらのリペアにもたいへん満足しています。

今はなかなかライブ出来ない状況ですが、いつか音楽仲間とリペアして頂いたギターの音を楽しみたいと思います。5年前にリペアして頂いたCat's Eyeは今も状態を保って元気に良い音を響かせてます。

今後ともよろしくお願い申し上げます。

M.N.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

両ギターともに演奏性、音響特性ともに問題なかったとの旨、お聞きしてホッと安心しております。
Gibson J-45のネック元起きは私も驚きましたが、弦の張りっぱなしのまま放置するのはギターにとって大きな負担なんだと言うことを改めて確認できた次第です。
先回のメールで申し上げた保管方法をご参考にしていただけましたら幸いです。

Asturias D.Emblemはまだ若い部材のギターですが、仰るとおりTUSQ化の効果が大きく、魅力的な音を奏でてくれるようになったと思いました。
今後の部材の熟成による音色の深みが増していくことがとても楽しみです。

今は演奏活動がままらないな状況ですが、ステイホームな練習やレパートリーを増やしたり出来るのではないかと思っています。
これからも元気になったギター達と一緒に素晴らしいギターライフをお送りください。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

ネックリセット

ネック取り外し

1.ネックポケットへのアクセスホールを空けるため、15フレットを外します。
2.フレット溝を傷つけないようにハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。

3.15フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
4.ラバーヒーターを使ってフィンガーボードを暖めます。

ネックポケットへのアクセスホールを空けている様子です。


5.ヒーターを当て木でクランプします。
6.ヒーターに通電します。フィンガーボードの温度をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

7.そのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。次にネックの取り外しを行いましょう。

フィンガーボード分離の様子です。


9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。
12.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。

ネック取り外しの様子です。


13.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
14.ジグを取り外してジョイント部に残った古い接着剤(ニカワ)をクリーニングしましょう。

別角度から見たネック取り外しの様子です。


15.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。
16.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。

ネックジョイント部をクリーニングしている様子です。


ネック調整

17.ネックヒール部です。マスキングテープを貼り、この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
18.ヒール部分を削っていきます。

19.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
20.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

21.同様に反対側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
22.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。

23.ボディとフィンガーボード接合部をサンディングブロックで平坦にしておきます。
24.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

25.ネックとボディの間にサンドペーパーを挟みます。
26.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

27.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
28.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

ネックヒール部を調整している様子です。


29.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
30.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

31.さらにネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
32.ネック接合の準備が完了しました。

ネックとボディの直線性と取り付け角度を確認している様子です。


ネック再接合

33.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
34.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

35.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
36.クランプと当て木でネックを固定し、あふれ出た接着剤をふき取っていきます。

ネックを再接合している様子です。


別角度からです。


37.マスキングテープをはがします。
38.このまま固着を待ちましょう。

ネックリセット後の様子です。


39.リセット後のネックヒール部です。
40.ネックとボディの密着度はギター全体からの出音の要です。

フレットすりあわせ

1.フレットすりあわせの前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。穴径にあうようにエボニー片を丸く削ります。
2.ドリル穴にローズウッド材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

3.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
4.穴埋め加工が終わった15フレット溝です。

5.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
6.ボディもアクリル板でカバーしました。

7.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
8.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

9.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
10.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

11.さらにスチールウールで研磨を進めます。
12.最後はコンパウンドで磨き上げます。

13.プロテクタ類を外しましょう。
14.ピカピカのフレットになりました。

ナット交換

1. オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたいて外します。

ナット取り外しの様子です。


3. ナットを取り外したナット溝です。
4.ナット溝のクリーニングを行います。ナット溝に残った不要物を削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。ナットが溝と直接触れることによってギターの音色の改善が期待できます。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。

ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル高を切り出したサドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。