ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin 7-28 custom

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Martin 7-28 custom
高知県にお住まいのN.T.さんからMartin 7-28 customのリペアご依頼をいただき、フレット交換と弦周りのTUSQ化を行いました。
リペア後のギターを受け取られて、N.T.さんから、とても暖かいメッセージが届きました。

樋口さん
N.T.です

 本日受け取りました。ちょうど時間がありましたので、すぐ1時間ほど様々に弾いてみました。

 私の一番気になっていた1・2弦開放弦の耳障りな金属音ですが、改善されてほとんど気にならないレベルになっております。

 この580ミリスケールのほとんどのギターに私が感じていたこの不快音ですが、他の人たちにはあまり共感が得られず、見積もりしていただいた際の樋口さんのコメントでもこの音かなというくらいの感じだったようでしたので、リペアをお願いしたものの、実のところ自分の耳の感受性の問題かと半ば諦め半分で、だめなら手放すのかなと思っていました。というわけで、本当に驚きのうれしさです。(何が改善の一番の要素なのか興味深いところで、何かお気づきのことがありますでしょうか?)
 もちろん全体的にも音質、弾き具合ともとてもよくなっていると感じます。

 これで、通常のサイズのギターが少しずつ手に余るように感じてくる老後に向けて(^^ )、末永く愛用していけそうです。ありがとうございました! また機会がありましたよろしくお願いいたします。

N.T.さん、早速の暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

ご懸念されていました「プレーン弦の異音」ですが、結局リペア最初から最後まで確認することは出来ませんでした。
ただ、リペア前の試奏で気がついたのはプレーン弦以外のワウンド弦(3弦~6弦)がこもり気味出であることでした。

今回、リペアを行うに当たってナット、サドルを牛骨にして高音成分を抑えるべきなのか、TUSQパーツ素材にして全音域の出音特性を上げるのかを非常に悩みました。
高音成分を抑えることによって「プレーン弦の異音」発生を抑えられるかもしれない、と考えたからです。

結局、TUSQ素材を選び、弦の振動を全ての音域に渡ってボディに伝搬することによって「異音」に起因する高音を中低音が隠す状態になったのではないかと考えています。

いずれにしましてもリペア後のギターにご満足いただけて私もとても嬉しい気持ちでいっぱいです。
本来の潜在能力を取り戻したギターと一緒にこれからも素晴らしいギターライフをお送りください。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フィンガーボードの平面性を確認します。
4.軽くサンディングします。

5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
6.フィンガーボードをクリーニングします。

7.フレットプレスの準備が整いました。
8.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

9.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
10.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

11.第一のフレットプレス・ジグです。
12.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

13.ジグをサウンドホールから入れていきます。
14.ハンドルを回してフレットをプレスします。

15.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
16.2つ目のジグはこのように固定します。

17.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
18.順にプレスを進めていきます。

19.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
20.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


21.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
22.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

23.カットしたフレット端です。
24.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

25.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
26.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


27.整形されたフレット端です。
28.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

29.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
30.ボディもアクリル板でカバーしました。

31.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
32.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

33.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
34.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

35.さらにスチールウールで研磨を進めます。
36.最後はコンパウンドで磨き上げます。

37.プロテクタ類を外しましょう。
38.ピカピカのフレットになりました。

ナット交換

1. オリジナルナットです。
2.当て木を当ててコンとたたいて取り外します。

ナット取り外しの様子です。


3. ナットを取り外したナット溝です。
4.ナット溝のクリーニングを行います。ナット溝に残った不要物を削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。ナットが溝と直接触れることによってギターの音色の改善が期待できます。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。

ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。

7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します
8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

9.サドル高の切り出しを終えました。
10.サドル高を切り出したサドル上部にピーク位置を書き写します。

11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
14.ブリッジピン穴加工を終えました。

15.サドルを取り付けました。
16.完成したブリッジとサドルです。