Martin D-28
戻る神奈川県にお住まいのM.Y.さんからMartin D-28とMorris S-92のリペアご依頼をいただきました。弦高低下を図るためフレットすりあわせと弦周りのTUSQ化を行いました リペア後のギターを受け取られてM.Y.さんから暖かいメッセージが届きました。
先日は私の大切な2本のギターリペアをしていただきありがとうございました
実際にリペアの注文を出してから2年が過ぎていましたので、貴兄のwebサイトを参考にして自身で弦の高さの調節はある程度自由にできるようになっていました
以前は私のマーチンD-28では弦の高さを6弦レベル12フレットで、2.2ミリまで追い込むあたりからビビリ音が出ていましたが、今回のセッティングではネック周辺の整備も行われているためか、あるいはすり合わせの効果か、無理なく弦の高さを低くすることが可能となり、2.1ミリではビビリ音は皆無です
手持ちの第6弦12フレットで1.9ミリの高さのサドル(ちょっと削りすぎたもの)を入れてフィンガースタイルで実験してみましたが、カポ無しならビビリ音が出ることはありません。どこから眺めても精密機械のようで、素晴らしい出来です
音質の評価は難しいのですが、マーチンサウンドからTUSQサウンドに変化したなと思います。明らかにすべての弦でサステインが伸びています。テンポの遅い曲で確認すると分かりやすいと思いました。普段より1ランク細い弦セットを使ってもマーチンの鳴りを残したままで弾けます。この現象は高音側で目立つため、シャキシャキした音が得られるようになったと思います。握力の弱い私にはうってつけです。マーチンオリジナルのサドルに入れ替えるとメロウなマーチンサウンドに戻るようです。この辺はお好みで自分で調節すればいいのでしょう。さらに付け加えるべきは、今回の工作でブリッジの弦を通す穴周辺の細かい作業のおかげで、弦の取り換えが楽に行えるようになり、かつ弦の振動が胴に伝わりやすいように工夫されていることにも敬意を表します
一方のモーリスS92ですが、こいつの工作も完ぺきで精密機械のようにネックからブリッジにむけて弦が伸びていて、きわどいところでビビり音を避けることに成功しています。S92はもともとがすべてのパーツにTUSQを利用したギターですから音質に大きな変化はありません。しかし、ネックの工作のおかげで、今まで弦の高さをいくらサドルサイドで調節してもローポジションでの握りこみに力がいったものですが、あっけなく握れるように変化しており驚きました。ネック周辺の弦の高さは以前と変化ないように見えるのですが、握ってみると簡単に弦を抑えることができます。不思議です。どこがどう違うのか貴兄のウェブサイトでの工作の記録を後でじっくり拝見するつもりです。たぶん10ミクロン単位の変化がこの握りやすさとビビリの予防に影響しているのでしょう
2台ともリペアがうまくいってホッとしています
今後はこれらのギターの掃除や弦の張り替えなどにも少し気を遣うようして、貴兄のリペアの良い状態が少しでも長く続くように努力します。今回は本当にありがとうございました。
M.Y.さん、とても詳細なリペアレポートとともに暖かいメッセージをいただき、本当にありがとうございました
今回、M.Y.さんのご希望弦高がきわめて低く、ビビり音とのかねあいがどの程度で妥協すればよいのか、躊躇していた次第で、ご自身で弦高調整をされるとのことをお聞きして安心いたしました。そしてリペア結果にご満足頂けて、私もとても嬉しく思っております
今後のM.Y.さんのギターライフが素晴らしいものとなりますよう、お祈りしております
この度は弊工房にリペアのご依頼を賜り、本当にありがとうございました
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。
フレットすりあわせ
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- 1.マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
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- 2.ボディもアクリル板でカバーしました。
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- 3.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
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- 4.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。
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- 5.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
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- 6.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。
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- 7.さらにスチール・ウールで研磨を進めます。
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- 8.最後はコンパウンドで磨き上げます。
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- 9.プロテクタ類を外しましょう。
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- 10.ピカピカのフレットになりました。
ナット交換
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- 1. オリジナルナットです。
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- 2.当て木を当てて、軽くコンとたたいてナットを取り外します。
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- 3.ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が残っています。
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- 4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。
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- 5.クリーニング完了したナット溝です。
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- 6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。
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- 7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
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- 8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。
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- 9.1弦側からもナットの密着を確認します。
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- 10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。
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- 11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
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- 12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。
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- 13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れました。
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- 14.ナット上部をカットしました。
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- 15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
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- 16.ナットらしくなってきました。
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- 17.オリジナルナットから弦溝位置を読みとります。
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- 18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。
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- 19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
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- 20.弦高調整前のナットです。
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- 21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
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- 22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。
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- 23.ナット高調整前の弦溝です。
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- 24.弦高調整後のナット弦溝です。
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- 25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
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- 26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。
ピッチ調整~サドル作製
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- 1.ブリッジにイントネーター、サウンドホールにチューナーを取り付けました。
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- 2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します
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- 3.サドルピーク位置を書き写しておきます
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- 4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。
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- 5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
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- 6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。
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- 7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
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- 8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。
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- 9.サドル高の切り出しを終えました。
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- 10.サドル上部にピーク位置を書き写します。
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- 11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
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- 12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。
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- 13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
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- 14.ブリッジピン穴加工を終えました。
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- 15.サドルを取り付けました。
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- 16.完成したオフセットサドルとブリッジです。