Morris W-80
戻る高知県にお住まいのS.H.さんからMorris W-80のリペアご依頼をいただき、トップ板割れリペアとフィンガーボード浮きリペア、フレット交換、および弦周りのTUSQ化を行いました (後日、S.H.さんからCheri the Hammerのリペアご依頼をいただきました。S.H.さん、ありがとうございます!) 下記の文面はS.H.さんがこのギターを入手した際に私宛にいただいたメールと添付されていた写真です。文面にはギターの深刻な状況とギターを復活させたいS.H.さんの熱い思いが込められていました。
Higuchi-san,
I hope you don't mind me writing to you out of the blue (and in English), but maybe you can help me ...
Amongst your repair case files on the homepage I saw one for a Morris W-80. Last week while visiting an antique shop along the Niyodo-gawa here in Kochi Prefecture, I found a nice guitar case.
When I opened it, there was a Morris W-80 inside, but the instrument was in pretty bad shape, with a broken neck (literally) and terrible cracks on the top of the body.
I bought the case. Since the guitar basically looked like a write-off, the store clerk said she’d throw in the instrument for free.
When I got home, I took the guitar out and checked it over, thinking:
"Well, what am I going to do with you then? I can’t just throw you away, can I?"
I tried out the lower registers.
Even though it was clearly broken and out of tune, the sound was amazingly strong.
It was almost as though the guitar were pleading with me:
"I know I’m pretty beat up and not much to look at, but I've still got a lot to give. Go on: help me out here ..."
I've taken some photos, so that you can get a general impression of the damage. What do you think?
Can you help us?
リペア後のギターを受け取られて、S.H.さんから下記の暖かいメッセージが届きました 文面には復活したギターを手にされた喜びと興奮が記されています。
Higuchi-san,
Thank you for all your work on the Morris W-80.
It arrived here safely on Saturday, and when I finally had a few hours to play it on Sunday, I was amazed.
There was more than just life in there, there was a rich sound quality too.
This timbre may have been hidden for years but you have brought it back to life!
I especially like the sound when playing the lower strings.
They have a very powerful drive if you hit them right, which unfortunately I only manage occasionally. But the overall sound remains round and mellow.
So it's going to be fun to play some acoustic jazz.
Best of all the instrument feels really easy to play.
It's almost like it wants to put the player at ease – even a third rate one like me!
So on behalf of the Morris W-80 (now back from the dead), me and maybe the ghost of the previous owner, thanks again!
S.H.さん、とても温かいメッセージをいただき、ありがとうございました
ギターの状況を確認させていただいて、果たして楽器として蘇らせることが可能なのか、とても悩みましたが、トップ板修復を行った後に弦を張って強度的に問題がないことを確認して、ギターの復活を確信しました
弦周りのリペア工程を終えて試奏したときに聞いた音色は感動的なもので、S.H.さんの仰る「Back from the Dead」の言葉通りでした
During the top crack repair, I was a little bit nervous and anxious for the guitar recovers its enough strength against string tension.
The guitar retrieved as if saying "I'm OK !!!".
After repairing frets, nut saddle, I could hear the voice "Yes ! I'm ready !!".
I am very happy to read your impression message.
Morris W-80を「HELP」すること、そしてケースの中から「OUT」することができて、私も本当に嬉しい気持ちでいっぱいです
蘇ったMorris W-80とともに、これからも素晴らしいギターライフをお送りください
この度は弊工房にギターリペアのご依頼をいただき、誠にありがとうございました
今後とも何卒よろしくお願いいたします
トップ板割れリペア
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- 1.リペア前のギターのトップ板です。
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- 2.フィンガーボード付近が割れており、それに伴ってフィンガーボードがボディ内に沈み込んでいます。
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- 3.周辺のインレイもトップ板と一緒に浮き上がっています。
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- 4.かなり深刻な症状のギターです。
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- 5.ボディ内部の様子です。割れたトップ板がサウンドホール側に数ミリ移動しています。
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- 6.楽器としての機能を保持する強度を確保する修復を行いましょう。これはボディ内用の自作ジャッキです。
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- 7.ボディ内に本体を入れます。
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- 8.エンドピンジャック穴を通して固定します。
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- 9.ネックブロック側にもジャッキを入れてボディを伸ばしていきます。
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- 10.ミシミシという音を立てながらトップ板が本来の位置に戻っていきます。
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- 11.ボディ内部からも補正位置を確認します。
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- 12.トップ板とフィンガーボード下のトップブレイシングと接着します。
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- 13.この部分の固着が最も重要な部分の一つです。
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- 14.こちらは長年の形状変化で湾曲したインレイとトップ板片です。
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- 15.水の中に入れてトップ板片に保水します。
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- 16.湾曲を補正しました。
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- 17.本来あった部分に埋め込んでいきます。
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- 18.サウンドホール際のトップ板を接着します。
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- 19.サウンドホール内側からジャッキで固定しています。
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- 20.反対側のトップ板片も同様に接着します。
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- 21.弦を張って負荷をかけています。
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- 22.ボディ内部からはサウンドホール周辺に補強材を貼っています。
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- 23.リペア後のトップ板です。
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- 24.弦のテンションも受け止められるようになりました。
フィンガーボード浮きリペア
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- 1.リペア前のフィンガーボード、ローフレット部分です。
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- 2.浮きが見られます。
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- 3.接着剤を注入しました。
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- 4.クランプして固着を待ちます。
フレット交換
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- 1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
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- 2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。
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- フレットを抜いている様子です
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- 3.フィンガーボードの平面性を確認します。
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- 4.軽くサンディングします。
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- 5.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
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- 6.フィンガーボードをクリーニングします。
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- 7.フレットプレスの準備が整いました。
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- 8.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。
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- 9.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
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- 10.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。
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- 11.タングニッパでタング部をカットします。
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- 12.タング部処理を終えたフレット端です。
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- 13.第一のフレットプレス・ジグです。
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- 14.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。
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- 15.ジグをサウンドホールから入れていきます。
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- 16.ハンドルを回してフレットをプレスします。
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- 17.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
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- 18.2つ目のジグはこのように固定します。
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- 19.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
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- 20.順にプレスを進めていきます。
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- 21.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
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- 22.すべてのフレット打ち込みが終わりました。
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- フレットプレスの様子です
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- 23.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
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- 24.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。
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- 25.カットしたフレット端です。
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- 26.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。
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- 27.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
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- 28.1弦側のフレット端も同じように整形します
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- フレット端整形の様子です
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- 29.整形されたフレット端です。
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- 30.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。
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- 31.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
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- 32.ボディもアクリル板でカバーしました。
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- 33.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
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- 34.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。
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- 35.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
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- 36.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。
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- 37.さらにスチールウールで研磨を進めます。
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- 38.最後はコンパウンドで磨き上げます。
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- 39.プロテクタ類を外しましょう。
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- 40.ピカピカのフレットになりました。
ナット交換
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- 1. オリジナルナットです。
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- 2.当て木を当ててコンとたたいて外します。
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- ナット取り外しの様子です
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- 3. ナットを取り外したナット溝です。古い接着剤の跡が薄く残っています。
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- 4.ナット溝のクリーニングを行います。古い接着剤と汚れを削り取っていきます。
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- 5.クリーニング完了したナット溝です。
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- 6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。
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- 7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
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- 8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。
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- 9.1弦側からもナットの密着を確認します。
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- 10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。
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- 11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
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- 12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。
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- 13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
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- 14.ナット上部を切り取りました。
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- 15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
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- 16.ナットらしくなってきました。
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- 17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
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- 18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。
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- 19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
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- 20.弦高調整前のナットです。
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- 21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
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- 22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。
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- 23.ナット高調整前の弦溝です。
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- 24.弦高調整後のナット弦溝です。
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- 25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
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- 26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。
ピッチ調整~サドル作製
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- 1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
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- 2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。
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- 3.サドル山位置を書き写していきます。
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- 4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。
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- 5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
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- 6.サドル溝にピッタリはまるように加工できました。
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- 7.サドルの端も溝にピッタリはまっていることを確認します。
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- 8.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。
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- 9.サドル高の切り出しを終えました。
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- 10.サドル高を切り出したサドル上部にピーク位置を書き写します。
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- 11.サドルピーク位置を削りだしていきます。
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- 12.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。
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- 13.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
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- 14.ブリッジピン穴加工を終えました。
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- 15.サドルを取り付けました。
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- 16.完成したブリッジとサドルです。