ギター工房オデッセイ

Odyssey Guitar Craft

Martin D-28

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静岡県にお住まいのA.S.さんからGibson J-45とMartin D-28のリペアご依頼をいただきました。Martin D-28はネックリセット、フレット交換、ブリッジプレート・リペアなどを含むトータル・リペアを行いました。
リペア後のギターを受け取られて、A.S.さんからとても暖かいメッセージが届きました。

ギター届きました!
お正月だというのに、弦高調整をして頂き、本当にありがとうございました。

ギター凄く良いです。
弦高を上げて頂く事で、弾きにくくなるとおっしゃっていましたが、とても弾き易いです。

正確なネックの角度や、弦の長さを合わせて頂いたたからでしょうか。
リペア前に比べて弦のテンションが緩くなった様に感じます。
しかしギターの鳴りも良くなっているという、良いとこどりの状態です。

また、プレイの点でも大きな変化がありました。
強く弾けば強く鳴り、抑えて弾きたい時はスッと抑えられる。
とてもレスポンスが良いです。
弾き手の感情にピッタリとついて来てくれるそんなギターに生まれ変わっていました。
(弾いていて、楽しくてしょうがないです。笑)

今回は、D–28とJ–45を同時にリペアして頂きましたが、それぞれの音色の違いもリペア前よりも明確になっていました。
まだ数時間しか弾いていませんが、弾きこむ事で馴染んで来たらもっと良くなる予感がします。
これからがとても楽しみです。

心のこもった作業と、誠実な対応、本当にありがとうございました。

A.S.さん、とても暖かいメッセージをいただき、誠にありがとうございました。

今回、リペアを行いながら、ほぼ毎日ギターと触れ合いながらA.S.さんのギターへの思い入れを強く感じていました。 愛されるギター達は本当に幸せだなぁ、と思った次第です。

Gibson J-45は弦周りのリペア、そしてMartin D-28はほぼオーバーホールに近いリペアを行わせていただきましたが、共通して音響特性の改善を行えたのはブリッジプレート・リペアではないかと思っています。
リペア前は弦のエンドポールがトップ板に食い込む状態でしたので、とても「かわいそうなギター」だったのですが、 フレット山の整形とナット、サドル、ブリッジピンのTUSQ化とともに弦の振動が非常に効率的にギター全体に伝搬するように加工することが出来ました。

「レスポンスが良い」という表現はとても的(まと)をついていると思います。
強い弦の振動は強く激しく大きな音で、そして微妙な弦の振動はささやくような音でギターに奏でさせることが可能になったと思います。

Martin D-28はネックリセット、およびブリッジ交換を行うことで本来のギターの状態に戻すことができました。
部材は製造時と比べて限りなく乾燥していますので、ギターの音色は楽器として極限に近いものになったのではないかと思います。
プレーヤーの意図をそのまま表現できるギターに変身した、とリペア後に試奏を楽しませていただきました。

両ギターともリペア後の状態にご満足いただけて、とても嬉しい気持ちでいっぱいです。
これからも蘇ったギター達とともに素晴らしいギターライフをお送りください。

この度は弊工房にリペアのご依頼をいただき、本当にありがとうございました。
重ねてお礼を申し上げますとともに、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

ネックリセット

1.ネックポケットへのアクセスホールを空けるため、15フレットを外します。
2.フレット溝を傷つけないようにハンダゴテで暖めながらゆっくりと抜いていきます。

3.15フレット溝の奥にあるネックポケット(ネックとボディの接合スペース)にドリルで貫通穴を開けます。
4.ラバーヒーターを使ってフィンガーボードを暖めます。

ネックポケットへのアクセスホールを空けている様子です。


5.ヒーターを当て木でクランプします。
6.ヒーターに通電します。フィンガーボードの温度をモニタしながら徐々に温度を上げていきます。

7.そのまま数分間置いた後、ナイフを差し込んでいきます。接着剤が熱で軟化しているのがわかります。
8.15フレット下部分までナイフが入りました。フィンガーボードとボディの取り外しが完了です。次にネックの取り外しを行いましょう。

フィンガーボード分離の様子です。


9.ネックは蒸気ではずします。まず専用のジグを取り付けます。
10.ジグ取り付けが完了しました。

11. 蒸気発生用のエスプレッソメーカーにホースと蒸気注入ジグを取り付けます。
12.15フレットの穴に先端を差し込んで蒸気を発生します。かなりの高温蒸気が発生しますので、ギターと体へのやけどには要注意です。

ネック取り外しの様子です。


13.ダブテイル・ネックジョイントがはずれました。
14.ジグを取り外してジョイント部に残った古い接着剤(ニカワ)をクリーニングしましょう。

別角度から見たネック取り外しの様子です。


15.蒸気の熱と湿り気が残っている間に古い接着剤(ニカワ)を削り落としておきます。
16.ネック側にも接着剤が残っていますので、クリーニングします。

ネックジョイント部をクリーニングしている様子です。


17.ネックヒール部です。マスキングテープを貼り、この部分の微妙な高さを目安に作業を進めていきます。
18.ヒール部分を削っていきます。

19.目標のヒール高が削り出せました。これに合わせてネック接合部を調整加工していきます。
20.ネック接合部を削っていきます。フィンガーボード側(右)は削らず、ヒール部(左)だけに傾斜を持たせるように加工していきます。

21.同様に反対側も切削加工を行います。少しずつ慎重に削っていきます。
22.ヒール先端部はよく研いだノミで削ります。

23.ボディとフィンガーボード接合部をサンディングブロックで平坦にしておきます。
24.ボディ側ネックスロットの外側にマスキングテープを貼ってボディを保護します。

25.ネックとボディの間にサンドペーパー挟みます。
26.ネックをボディに密着させながらサンドペーパーを抜き取ります。

27.1弦側と6弦側の両方を行います。このとき両サイドの引き抜き回数を覚えておきます。
28.ネック取り付けの直線性を確認します。直線けがき線の入ったアクリル板をネックからブリッジにかけて乗せます。

ネックヒール部を調整している様子です。


29.ナット部分センター位置にケガキ線を合わせます。
30.ブリッジ部分も同様にセンター位置にケガキ線を合わせます。

31.さらにネックとボディの接合部(14フレット)のセンター位置にケガキ線が乗っていることを確認します。
32.ネック接合の準備が完了しました。

ネックとボディの直線性と取り付け角度を確認している様子です。


33.HideGlue(膠:ニカワ)をフィンガーボード裏とネック接合部に塗っていきます。
34.接着剤が均一になるようにヘラでのばしていきます。

35.ネックとボディを接合します。ゆっくりジョイント部にネックを置きます。
36.クランプと当て木でネックを固定し、あふれ出た接着剤をふき取っていきます。

ネックを再接合している様子です。


別角度からです。


37.マスキングテープをはがします。
38.このまま固着を待ちましょう。

ネックリセット後の様子です。


39.リセット後のネックヒール部です。
40.ネックとボディの密着度はギター全体からの出音の要です。

41.オリジナル・ヒールキャップを当ててみました。
42.ネック取り付け角度を確保するために約1.5mmヒールを部削りました。

ブリッジ交換(新規作製)

1.オリジナルブリッジです。
2.弦高低下のためにブリッジ上面が削られているので音響特性が低下している事に加えて、ピッチずれ対策のためにブリッジピン穴位置をボトム側へ移動するため、新しいブリッジと交換します。

3.これはラバーヒーターです。
4.当て木と一緒にクランプしました。

5.温度をモニタしながら徐々に温度を上げていき、接着面が緩むまで待ちます。
6.ブリッジが暖まったところで接着面にナイフを挿入していきます。

7.慎重にナイフを進めていきます。
8.ブリッジが外れました。

ブリッジ取り外しの様子です。


別角度からです


9.接着面をクリーニングします。
10.エボニー・ブランクです。オリジナルブリッジを参考に新しいブリッジを削り出していきましょう。

11.外形を切り出しました。
12.ブリッジピン穴加工ジグを取り付けました。

13.ピン穴位置を確認しています。
14.ピン穴を開け終えました。

15.両サイドのスロープ加工を行いました。
16.上下の丸みをつけました。

17.ブリッジピン穴に傾斜加工を施します。
18.接着準備完了です。

19.接着面周囲をマスキングテープで保護しました。
20.湯煎したニカワを接着面に塗ります。

21.接着面全体に薄く塗っていきます。
22.そっとブリッジを乗せます。

23.クランプしています。
24.クランプで溢れたニカワを拭き取っていきます。

ブリッジ再接合の様子です。


別角度からです


25.マスキングテープを剥がします。
26.このまま固着を待ちます。

27.固着後のブリッジにサドル位置を書き写すためにマスキングテープを2重に貼ります。
28.サウンドホールにチューナー、ブリッジにイントネーターを取り付けます。

29.ピッチ調整を行い、イントネーターでサドル山位置を確認していきます。
30.サドル山位置をマスキングテープに書き込んでいきます。

31.サドル山位置を確定します。
32.弦高測定によって目標サドル高も記録しておきます

33.溝位置とサドル山ピーク位置を別々に記録しておきます。
34.サドル溝加工ジグを取り付けました。

35.トリマの位置決めを行っています。
36.サドル溝加工を行っています。

サドル溝加工を行っている様子です。


37.マスキングテープをはがします。
38.サドル溝加工を終えました。サドル作製工程へ移りましょう。

フレット交換

1.フレットを抜いていきましょう。はんだごてでフレットを暖めながらゆっくり抜いていきます。
2.フィンガーボードを傷つけないように最後までゆっくりと抜いていきます。

フレットを抜いている様子です。


3.フレット交換の前にフィンガーボードにあけた穴を元に戻しましょう。穴径にあうようにエボニー片を丸く削ります。
4.ドリル穴にエボニー材を押し込み、フィンガーボードを傷つけないように出た部分をカットします。

5.溝幅に合わせてのこぎりで切れ込みを入れます。
6.穴埋め加工が終わった15フレット溝です。

7.フィンガーボードの平面性を確認します。
8.軽くサンディングします。

9.フレット溝の中のゴミ類を削り出します。このときもフレット溝エッジを傷つけないように注意します。
10.フィンガーボードをクリーニングします。

11.フレットプレスの準備が整いました。
12.フィンガーボードの湾曲度(アール)を計測します。

13.フレットベンダーでフレットにアールをつけていきます。
14.フレットをフィンガーボード幅よりも少し大きめに切り取ります。

15.第一のフレットプレス・ジグです。
16.アールにあった先端ビットをジグのプレス部に固定します。

17.ジグをサウンドホールから入れていきます。
18.ハンドルを回してフレットをプレスします。

19.ボディとネックの接合部分付近まで、この要領でプレスを進めていきます。
20.2つ目のジグはこのように固定します。

21.ネジを締めてフレットをプレスしていきます。
22.順にプレスを進めていきます。

23.3つ目のジグで残りのフレットをプレスしていきます。
24.すべてのフレット打ち込みが終わりました。

フレットプレスの様子です。


25.打ち込み終わったフレットの端は飛び出ています。
26.飛び出した部分をカットします。このとき切れ端が行方不明にならないように指先で受けます。

27.カットしたフレット端です。
28.カットしたフレット片は失わないように一カ所にまとめておきます。

29.専用のヤスリを使ってフレット端を整形します。
30.1弦側のフレット端も同じように整形します。

フレット端整形の様子です。


31.整形されたフレット端です。
32.さらにフレット・エンド・ドレッシング・ファイルでバリを取っていきます。

33.引き続いてフレットすりあわせを行いましょう。マスキングテープでフィンガーボードを保護します。
34.ボディもアクリル板でカバーしました。

35.直定規を乗せて、フレット山が凹んでいる箇所にマークを入れます。
36.マークされた部分を中心にフラットファイルでサンディングします。

37.平らになったフレット山を専用のヤスリで丸くしていきます。
38.紙ヤスリ(#400)で粗研磨します。

39.さらにスチールウールで研磨を進めます。
40.最後はコンパウンドで磨き上げます。

41.プロテクタ類を外しましょう。
42.ピカピカのフレットになりました。

ブリッジプレート・リペア

1.ボディ内部ブリッジの裏側に取り付けられているブリッジプレートです。プレートの中央部がサンディングにより削られて厚みがほとんどなくなっています。
2.プレート周囲(特に左右)は削られておらず、ほとんどオリジナル状態の厚みを維持しています。つまりプレート面が曲面状に加工されています。このままでは弦のエンドポールがまもなくトップ板に食い込んでトップ割れを引き起こしますので、メイプル板を接着して強度補完を行います、

3.追加プレートをオリジナルブリッジプレートに接着しました(左右の穴は位置決め用のものです)。
4.ブリッジピン穴を開けます。プレート側に当て木を当てて一つずつ開けていきます。

ブリッジピン穴を空けている様子です。


5.ブリッジピン穴を開けました。
6.弦を張りました。エンドポールがプレートの上にしっかり固定されています。

ナット交換

1. オリジナルナットです。
2.ナットはすでに外れていました。

3. ナットを取り外したナット溝です。前回リペア時のスペーサー紙と接着剤が残っています。
4.ナット溝のクリーニングを行います。ナット溝に残った不要物を削り取っていきます。

5.クリーニング完了したナット溝です。ナットが溝と直接触れることによってギターの音色の改善が期待できます。
6.ネック幅に合わせてナットスラブを切り出します。

7.フラットファイルを使ってナットの平面を削り出します。
8.ナット溝にピッタリはまるようになりました。

9.1弦側からもナットの密着を確認します。
10.逆光を利用すると密着度の確認が効率的に行えます。

11.ナットのサイドもこの段階で面取り加工しておきます。
12.目視および指で触ってネック、フィンガーボードと段差のないことを確認しておきます。

13.フレットの高さに合わせてケガキ線を入れます。
14.ナット上部を切り取りました。

15.ヘッド側に放物曲面を削り込んでいきます。
16.ナットらしくなってきました。

17.目標の弦溝位置を読みとります。(1弦と6弦の位置で他の弦の位置が決まります)
18.弦溝位置を新しいナットに書き込みます。

19.弦溝を専用のヤスリで彫り込んでいきます。
20.弦高調整前のナットです。

21.弦を張って弦高調整を行います。2フレットを指で押さえて1フレットと弦の隙間がギリギリに下がるまでナット高を下げます。
22.ストリングリフターで弦を待避させて、ナット溝を徐々に下げていきます。

23.ナット高調整前の弦溝です。
24.弦高調整後のナット弦溝です。

25.他の弦も同じ要領で調整しました。弦高調整後のナットです。
26.ナットと弦の接触面積と角度を最適化することによってギターの音色は大きく変わります。

ピッチ調整~サドル作製

1.サウンドホールにチューナー、サドル位置にイントネーターを取り付けました。
2.すべてのフレットのピッチを確認していきます。ピッチがずれている場合は、イントネーターのサドルピーク位置を調整します。

3.サドル山位置を書き写していきます。
4.サドル溝に合わせてサドルスラブを切り出します。

5.サドルの底はフラットファイルで平面をつけていきます。
6.ピッチ調整時に確認したサドル高をサドルに書き込んでいきます。

7.サドル高の切り出しを終えました。
8.サドル高を切り出したサドル上部にピーク位置を書き写します。

9.サドルピーク位置を削りだしていきます。
10.ブリッジピン穴加工を行います。まず、糸鋸で弦の導出口をサドル側へ引き寄せます。

11.さらにミニルーターで弦の導出角度をつけていきます。
12.ブリッジピン穴加工を終えました。

13.サドルを取り付けました。
14.完成したブリッジとサドルです。

ブレイシング剥がれリペア

1.サウンドホールからボディ内を覗いています。
2.向かってボディの右側内部の状態を確認しています。

3.一番下のブレイシングも剥がれています。
4.向かって左側です。
5.下から2番目です。
6.左側一番下です。全部で6カ所のブレイシングが浮いています。
7.マスキングテープで保護します。
8.テープの上にボンドを乗せて浮き部分にナイフで流し込んでいきます。

9.クランプで固定します。
10.同様に左側剥がれ部分にもボンドを流し込みます。

11.全ての浮き部分にボンドを流し込みます。
12.このまま固着を待ちましょう。